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2013年10月 1日 (火)

オイラーのベルト理論から、ポータラップの巻き数による摩擦力の増大を考える

なんていう大層なタイトルの記事で久しぶりの更新です。私は力学が超苦手&無知識なのでタイトル倒れになる可能性大ですが、やれるだけやってみましょう!倒れるなら前のめりに倒れてやるぜい!ちょっとくらいイラストいれようと思ったんだけど、めんどくさいから文字の洪水でいくぜい!

リギングでポータラップを使いだすと、「何回巻けばいいんだ?」と悩んだことがある人はたくさんいらっしゃるかと思います。かくいう私もいつも悩みます。

巻き数を増やせば増やすほど、大きい吊り荷を小さい力で保持できることは経験的に理解していただけるかと思います。かといって、びびって増やしすぎてもロープが流れずにロックしちゃって、ロープとアンカーを一気に痛めるのでつらいもんです。最適な巻き数を選ばないといろいろと(安全的にも財布的にも)大変です。

そこで最適な巻き数の検討が理論的にできないものか、というのが今回の主旨ですわ。

【オイラーのベルト理論】
吊り荷をぶらさげたロープを円柱(以下、わかりやすいようにドラムと呼称)に巻き付ける場合、巻き数を増やすと摩擦力が増大して、ロープを掴んでいるAくんはあまり力をいれなくて済みます。A君がロープを保持する力は理論的には計算で導き出せます。

それがオイラーのベルト理論というものでして、式はこんな感じになります。

保持する力=吊り荷の荷重×1/{e^(摩擦係数×ロープがドラムに接触している角度ラジアン}
e=自然対数の底(2.71828182845904…)

【重要なのはたった3つ】
こういう式を見ると体が拒否反応を起こしますよね。私はそうです!みんなもそうでしょ?まあぐっとこらえてください。重要なパラメータはたった3つ。ここが変動すると結果が変わってきます。

・吊り荷の荷重
・摩擦係数
・巻き数

特に重要なのは下のふたつ。上記の数式を見てわかるとおり、摩擦係数と巻き数はeを累乗する数値なので、ここが変動すると、その結果も指数関数的に変わります。

【摩擦係数は滑りやすさの数値だよ。気難しい人だよ】
摩擦係数ってのは、要は「AとBの間でどれだけの摩擦が発生するか?」を数値化したものです。摩擦係数が大きいほど滑りにくいです。そして静摩擦係数と動摩擦係数があります。

ただ、この摩擦係数は非常にやっかいな代物でして、定数のはずなんですけど実際には一定の値をとってくれず、平気で数%~数10%くらいの変動をするそうです。またロープの汚れや濡れ具合、気候によっても変化します。だからいくらベルト理論を用いて計算しても、実験を繰り返さないと机上の空論になっちゃうんですが、それでも、だいたいの傾向を掴む参考になるはずです。

こことかここを参考にして、ナイロンと金属との静摩擦係数は0.3、動摩擦係数は0.25くらいじゃねーかと仮定します。ポリエステルと金属との摩擦係数もだいたい同じはず。リギングロープにコーティングがしてある場合、摩擦係数はもうちょい下がるでしょう。

【巻き数はラジアンという単位に換算するんだよ、ややこしいね】
巻き数はラジアンという単位で計算します。あまり聞き覚えない単位でしょうけど、例えば90度の角度だと1/2πラジアン、180度はπラジアン、360度だと2πラジアンです。πはわかりますよね、円周率(3.14…)です。

ロープを屈折させる場所がたくさんある場合、摩擦係数が一緒ならそれぞれの角度を足した総和を使います。

【ベルト理論に距離は関係ない!】
注意してほしいのは、ベルト理論において巻いた距離は関係ない!ということです。カラビナに1巻きしても、ポータラップのXLサイズに1巻きしても、吊り荷を保持する力は一緒です。あくまでロープとドラムが接触している角度だけが問題になります。

注:ただ、実際には大きい径のものに巻いたほうが絶対に有利です。動的な状況(ポータラップで制動確保するとか)だと、墜落エネルギーは熱エネルギーに変換されます。カラビナでもポータラップでも、そこで発生する熱エネルギーは同じ量になるので、ひと巻きあたりのロープを多くできるドラム径の大きいもののほうが、単位面積当たりの熱が分散して好都合のはずです。放熱性能も向上するはずです。

また、ロープのベンドレシオを考えるといかがでしょうか。間違いなく大きいドラム径のほうが有利です。なもんで、ロワーリングデバイスを購入するときは、なるべく大きい径のものを買うほうがロープに優しいです!

個人的な経験では、ドラムが大きいほどスムーズな制動がしやすい気がします。1巻きあたりのロープを多く使うほど時間的な余裕ができるんだろうか?摩擦係数が安定するんだろうか?勝手な推測なのでよくわかりません。あと本文とは全く関係ない話ですけど、個人的にはポータラップよりGRCSのボラードのほうが使いやすいです。となると…STEINのRCシリーズ最強か?

【ドラム巻きはロープを動きにくくするんだわ。】
そしてもうひとつ注意点があります。ドラム巻きにするとロープは動きにくくなります!吊り荷を保持するにあたってドラム巻きはなんとなく倍力システムのように働きますが、これは「吊り荷の荷重>保持力」の場合にそう感じるだけでして、もし吊り荷を持ち上げる(吊り荷の荷重<保持力)場合、ドラム巻きは抵抗力になります。ドラム巻きにロープを動きやすくする機能は全くありません。(キャプスタンウィンチはロープじゃなくてドラム自体を回転させるので別の話になります。)

【ちょっと計算結果を眺めましょうよ】
それでは実際に計算した結果です。吊り荷を100kgとして、摩擦係数を0.25と仮定した場合、ベルト理論的にはロープをドラムに1巻き(360度)すると約20.7kgの力で保持できます。2巻き(720度)だと約4.3kg、3巻き(1080度)だと約0.9kgの力です。

一覧にしてみると…(摩擦係数0.25と仮定)
1巻き…20.7kgの力で保持できる (1:5)
2巻き…4.3kgの力で保持できる (1:23)
3巻き…0.9kgの力で保持できる (1:111)

巻き数が増えるに従って、摩擦力が一気に増大していく様子がわかると思います。すごいなあ。巻き数を半周分増やすだけでも結構変わってきますね。特に2巻きと3巻きの差が大きいから、2.5巻きとかを積極的に使っていったほうがいいかも?

ちなみに摩擦係数をちょいといじっても結果は大きく変わります。

摩擦係数0.3と仮定した場合…
1巻き…15.1kgの力で保持できる  (1:6.6)
2巻き…2.3kgの力で保持できる (1:43.5)
3巻き…0.35kgの力で保持できる (1:286)

摩擦係数をたった0.05増やしただけで結果がこれほど変わってきます。だから計算結果の数値を覚えてもあまり意味はありません。よくわかっていない人に巻き数による摩擦力の変化をドラマチックに教えるときには有効かもしれませんけどね。

まーなんせ巻き数の変化でどれくらい摩擦力が増大するか、なんとなく感じていただけたと思います。

【100kgの吊り荷に最適な巻き数は?】
100kgの吊り荷を巻きドラムで持つ場合、1巻き(20kg)だと体重をかけないとしんどいような。そして3巻き(1kg)だとロック気味になって保持する手を緩めても落ちてきてくれない可能性があります。2巻き(4kg)、もしくは2.5巻きくらいがちょうどいいかもしれない……とわたしは推測しました。最初はそれくらいでやってみて、適時調整を加えていったらいいんじゃないかな?

【まとめ:机上の空論も使い方を間違えなければ頼もしい味方だよ】
若かりし頃、音響屋を目指して講習を受けていた時代、講師のひとにこんなことを言われました。「間違ってもいいんだけどさ。何となく間違えるんじゃなくて、頭を使って自分で仮説を立ててから間違えた方が絶対いいよ。そうすれば反省できるやろ?」 いやー名言ですな。いまでも心に残っています。

今回の計算結果、しょせん机上の空論ですから狂いはあるでしょうし、その他の力学を考慮する必要があるんでしょうけど、何の見当もなくやっていくより経験値を蓄えやすいはずです。エクセルで計算式をちょいちょいと作ってみて、色々と試してみてください。そして失敗しても許される状況で、理屈と現実の整合をとってみてください。

あと、ロープを引っ張る力と自分の感覚をすり合わせておいた方がいいです。ロープを20kgの力で保持するのがどんな感じなのか、わかりますか?私もまだわかってませんから、これからです。

今回は静的な状況だけを対象にしています。でもポータラップとかのロワーリングデバイスの本領は、動的な状況でロープを流すときに発揮されますよね。これは次回以降に記事にしたいと思います。いやごめんなさい嘘をつきました。たぶんしません(笑)。

最後になりましたが、実はオイラーのベルト理論とポータラップの相性はいまいちだと思います(笑)。ボラードタイプ(STEINのRCシリーズとか)のほうがベルト理論と相性がいいはず。ポータラップみたいなフローティングタイプはその他の力学が絡んでくる隙間が大きいような、そんな気分になっています。

【おまけ:ポータラップの巻き数の数え方はややこしい】
ポータラップは最初のセットアップ時に1巻きしています。これを1巻きに数えるか、ノーカウントでいくか、地上班とクライマーで話を合わせておいたほうがいいです。私は地上班のメンバーが結構ころころ変わるので、この問題に結構気をつかっています。2巻きだと思ってたら3巻きになってしまっている可能性がありまっせ。(そしてその差は非常にでかい)

【おまけその2:あそこのホームページは金字塔だわ。ほんとすごい】
今回の記事を書くにあたって、ぼっちさんのホームページをすごく参考にさせていただきました。紹介するのは2回目かな?リギング作業時の制動確保を理屈的に捉えたい人にとって、これ以上ないくらい勉強になるかと思います。本気ですごいです。こんな素晴らしいテキストを日本語で読める奇跡に感謝感激!ぼっちさん、ありがとうございます!
http://www.k5.dion.ne.jp/~botch/index.html (ふろくに制動確保理論がのっています。その他のテキストも超おすすめ!理論派の人の文章は面白いなあ!)

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コメント

お久しぶりです。フリップさん更新心待ちにしてました。
超うれしいっす!

投稿: ヤスタマン | 2013年10月 1日 (火) 21時10分

お待たせしましたー、えへへ。やっとこさ私生活が落ち着いたので、ちょくちょく更新していけそうな気がします。のんびりお待ちくださいませませ。

投稿: フリップ | 2013年10月 1日 (火) 23時08分

摩擦係数0.25と仮定
1巻き…20.7kgの力で保持できる (1:5)
2巻き…4.3kgの力で保持できる (1:23)
3巻き…0.9kgの力で保持できる (1:111)

が5のN乗で

摩擦係数0.3と仮定した場合…
1巻き…15.1kgの力で保持できる  (1:6.6)
2巻き…2.3kgの力で保持できる (1:43.5)
3巻き…0.35kgの力で保持できる (1:286)

が6.6のN乗てことでいいのかな?

つまり摩擦係数0.25の場合
4巻きだと5×5×5×5=625だから0.16kgの力で保持できる。
摩擦係数0.3の場合で4巻きだと
6.6×6.6×6.6×6.6=1897.4だから0.05kgの力で保持できる。

いいのかな??

投稿: bota | 2013年10月 4日 (金) 12時56分

botaさん>
おおっなるほどー!言われてみたらほんとだ!間違いないです!ラジアンは180度ごとに+1していくんだから、計算式とも合致します。気づかなかったなー、ありがとうございます、めっちゃ嬉しくなりました!

摩擦定数0.25の場合、正確に言うと1巻きの時は「4.8101……」なので、「5」で計算すると巻き数が増えるにしたがって誤差は大きくなっちゃいますが、現場レベルではbotaさんの計算式のほうが使いやすいと思います。どうせ巻き数が増えたら微小な数値になるからあんまり影響ないですし。

おっ、そうだ。もし半周追加するなら「×2」でだいたい合います(摩擦定数0.25の場合)。2周半なら 5の2乗×2=50。正確には50.754なのでほぼ近似値です。180度巻いたときの値が「1:2.19……」なので。

投稿: フリップ | 2013年10月 4日 (金) 17時24分

なんとなーく、だったんだけど(^-^;

でも摩擦係数0.25の場合
4.8のN乗なら
2巻きで4.8×4.8=23.04
3巻きで4.8×4.8×4.8=110.592
でOKみたいですね。

ちなみに
√4.8=2.190

なので半巻の場合は平方根でいいみたいです。
2周半で
4.8×4.8×√4.8=50.478

で近い値になりました。

とすると
摩擦係数が0.3の時は
半巻の場合
6.6の平方根
√6.6=2.569
でいいのかな?

投稿: bota | 2013年10月23日 (水) 20時28分

返信がすんごい遅くなりました!
ええ、それで合っています。ちなみに摩擦係数0.3の場合、正確な一巻きの値は「6.5861……」です。まあそこまで細かく考える必要は全くないでしょうけどねー。

投稿: フリップ | 2013年11月10日 (日) 18時00分

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